スタートアップの創業者として、ビジネスをしっかりとコントロールする必要があります。
投資の確保、予算の適正配分、長期的な成長目標の達成には、主要なビジネス指標を常に把握することが欠かせません。
では、どの指標を追うべきなのでしょうか。
マーケティング・プロダクト・営業の成果を測るKPIは数多くありますが、会社の飛躍的成長に向けた進捗を俯瞰できるコアなビジネス指標はそれほど多くありません。
これらはベンチャーキャピタリストがスタートアップへの投資判断に重視する数値です。取締役会や社員との議論でも活用でき、戦略の課題を特定・修正しながら持続的な利益成長に向けた方向性を維持するための羅針盤となります。
エレベーターでエンジェル投資家と居合わせたとき、瞬時に答えられるよう、これらの指標を頭に入れておきましょう。
North Star Metric(北極星指標)
North Star Metricという概念を最初に提唱したのは、スタートアップ投資家のSean Ellis氏です。彼の言葉を借りれば、North Star Metricの目的は「チームの全員が同じ方向を向いて、その指標を成長させるために協力し合う状態をつくること」です。
North Star Metricは、組織全員が共通のゴールに向かうための仕組みです。あるプロジェクトがNorth Star Metricに貢献しないなら、そのプロジェクトに人員を割くべきではない可能性が高いと言えます。
シリコンバレーのリーダーたちはNorth Star Metricを活用してプロジェクトを優先順位付けし、リソースを効率的に配分しています。例えば、MetaのNorth Star Metricは「月間アクティブユーザー数」です。この指標はMetaの戦略の頂点に位置し、すべての取り組みがその改善に寄与するよう設計されています。
North Star Metricを選ぶ際は、大局的な視点で考えることが重要です。
例えば、月次サブスクリプションで収益を得るSaaSビジネスを考えてみましょう。この会社の創業者が「月間新規登録数」をNorth Star Metricに設定し、高い数値を達成しても、それだけでは成功とは言えません。
マーケティングチームが無料トライアル登録に全リソースを投入しても、有料サブスクリプションへの転換が起きなければ問題が生じます。関心を高めること自体は悪くありませんが、コンバージョンがなければ意味がありません。
このため「月間新規登録数」は重要な指標ではあっても、全体目標の半分しか反映しておらず、ビジネスの最善のNorth Star Metricとは言えない場合があります。
最良のNorth Star Metricは、会社の最上位目標を明確に反映するものです。理解しやすく、追跡しやすく、会社のミッションと一致していることが条件です。
【関連記事:North Star Metricの選び方】

バーンレート(Cash Burn Rate)
バーンレートは、ビジネスがどれだけ速くお金を使っているかを示す指標です。創業初期は赤字運営が多いスタートアップにとって、特に重要なビジネス指標です。
バーンレートはキャッシュランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を算出するために使用されます。
ベンチャー支援を受けた企業は、資金調達ラウンドの計画にバーンレートとキャッシュランウェイを活用します。投資家側もバーンレートを、その企業が資金を賢く使っているかどうかの判断材料にします。
資金不足は、スタートアップが失敗する最大の理由です。どのVCも見込みのないプロジェクトへの投資は避けますが、だからといってバーンレートを最小化すればいいわけではありません。低すぎるバーンレートは、成長への再投資が不足しているシグナルと見なされる場合があります。
バーンレートには2つの計算方法があります。
1. グロスバーンレート: 毎月の営業コスト支出額(収益は考慮しない)。 グロスバーンレートの計算式:
営業コスト ÷ 月数 = グロスバーンレート
2. ネットバーンレート: 毎月の純損失額(収益を考慮する)。支出が多くても収益が大きければ相殺されます。キャッシュランウェイには常にネットバーンレートを使用してください。 計算式: (期初残高 − 期末残高)÷ 月数 = ネットバーンレート
結局、バーンレートの管理とは収益性と成長のバランスを見極めることです。創業者として、利益を蓄積するか、ビジネスに再投資するかを判断する必要があります。
【関連記事:バーンレートの正しい計算方法】
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運転資本(Working Capital)
運転資本(正味運転資本またはNWCとも呼ばれる)は、投資家が企業の財務健全性と業務効率を評価するための指標です。
プラスの運転資本は、将来の成長を支えるだけの流動資産があることを示します。マイナスの場合は、債務返済や同水準の事業継続に必要な資金が不足していることを意味します。
マイナスの運転資本を抱える企業は、資産売却や営業コストの削減を余儀なくされ、最悪の場合は倒産リスクを負うことになります。
運転資本は、流動資産(売掛金・在庫・現金など、12ヶ月以内に受け取る予定の資産)から流動負債(給与・買掛金・税金など、12ヶ月以内に支払う債務)を差し引いて算出します。
計算式は以下のとおりです。
流動資産 − 流動負債 = 運転資本
バーンレートと同様に、運転資本が高すぎても低すぎても懸念材料になります。マイナスは財務困難を示しますが、過剰に高い場合は保有資産の有効活用や長期成長への投資が不足している可能性があります。
【関連記事:正味運転資本:計算方法と重要性】

顧客獲得コスト(CAC)
顧客獲得コスト(CAC)は、1人の新規顧客を獲得するのにかかるコストを示す指標です。営業・マーケティング戦略が効率的に機能しているかどうかを判断する、事業管理上の重要な指標です。
CACの計算式: 営業・マーケティングコスト ÷ 新規顧客獲得数 = CAC
CACを算出する際は、営業・マーケティング費用に加え、給与・賞与・諸経費も含めます。
CACは、営業・マーケティングで新規顧客を獲得するすべての企業に重要な指標です。ECビジネス、専門サービス業、さらにはスーパーマーケットなどの実店舗型ビジネスにも当てはまります。
新規顧客獲得コストを下げるほど、利益率は高まります。
CACを評価する際は、獲得した顧客の生涯価値(CLV)とあわせて考えることが重要です。SaaSや定期収益型ビジネスには当然の視点ですが、CLVはあらゆるビジネスに適用できます。
例えば、あるECビジネスのCACが10,000円で、平均注文額が11,000円だとします。この低い利益率は当初懸念されますが、データを分析するとリピート顧客が多いことが判明。顧客生涯価値(CLV)の平均が160,000円であることがわかり、CACが正当化されます。

顧客生涯価値(CLV)
顧客生涯価値(CLV)は、顧客が取引期間全体を通じてもたらす収益を測定する指標です。
新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりコストがかかるため、CLVを高めることは収益性を最大化する上で最も効果的な施策のひとつです。
CLVは顧客満足度の指標にもなります。顧客が長期にわたって製品を使い続けているなら、正しい方向に進んでいる証拠です。
CLVは、顧客獲得コスト(CAC)の妥当性の判断や価格戦略の策定にも活用できます。顧客生涯価値の計算式は以下のとおりです。
年間顧客価値 × 平均顧客継続年数 = CLV
CLVを測定するには、顧客ライフサイクルを把握する必要があります。ECビジネスであればリピーターの購入頻度、サブスクリプションビジネスであればアップセル・クロスセルの状況や解約率を把握することが重要です。
【関連記事:ECにおける顧客生涯価値を見逃すな】

回収期間(Payback Period)
創業者として、どの取り組みに投資するかを決断するのは難しいものです。新製品の開発に予算を割くべきか、チームの業務効率化に投資すべきか、そのような判断を常に迫られます。
回収期間は、投資に伴う機会とリスクを定量化するための指標です。回収期間が短いほど、より良い投資と言えます。
回収期間の計算式は以下のとおりです。
投資額 ÷ 投資からの年間キャッシュフロー = 回収期間
回収期間は事業計画の策定時に予算配分の優先順位を決める際に有用な指標です。
【関連記事:回収期間の算定:スタートアップ成功のための計画立案】

粗利・営業利益・純利益率(Profit Margin)
利益率は、費用を差し引いた後の残余収益を示し、ビジネスの成長可能性を明確に示す指標です。
利益率には3つの計算方法があり、いずれもパーセンテージで表します。
粗利益率(Gross Profit Margin)
粗利益率は、売上高から売上原価(COGS)を差し引いた粗利益の割合です。
粗利益率の計算式は以下のとおりです。
(粗利益 ÷ 売上高)× 100 = 粗利益率
営業利益率(Operating Profit Margin)
営業利益率は、営業・管理・販売・諸経費を差し引いた後の収益の割合です。計算式は以下のとおりです。
(営業利益 ÷ 売上高)× 100 = 営業利益率
純利益率(Net Profit Margin)
純利益率は最終的な収益性を示します。営業コスト・諸経費・COGS・税金・一時費用・債務返済など、すべての費用を差し引いた後の収益の割合です。
純利益率の計算式は以下のとおりです。
(純利益 ÷ 売上高)× 100 = 純利益率
利益率の水準は業界によって異なるため、同業他社と比較したベンチマーキングが効果的です。また、前年比(YOY)でのパフォーマンス把握にも役立ちます。
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純収益維持率(NRR)
純収益維持率(NRR)は、SaaSや定期収益モデルを持つ企業の主要KPIです。既存顧客から一定期間に維持できた収益の割合を示します。
NRRは、月次定期収益(MRR)、既存顧客へのアップセル・クロスセルによる追加収益、解約またはダウングレードによる収益減少を総合的に加味した指標です。
NRRは顧客成功の程度を測り、価格モデルの収益性を評価するための優れた指標です。
NRRの計算式は以下のとおりです。
[(期初MRR + 拡張収益) − チャーン] ÷ 期初MRR = NRR
【関連記事:純収益維持率(NRR)とVCが注目する3つのポイント】

月次定期収益(MRR)
月次定期収益(MRR)は、SaaS・ストリーミングサービス・定期収益モデルを持つ企業のもう一つの主要KPIです。
MRRは、ビジネスの成長を測定し、将来のキャッシュフローを予測するためのシンプルで効果的な手段です。
MRRが想定方向に動いていない場合は、顧客解約(チャーン)の問題がある可能性があります。顧客満足度やプロダクトマーケットフィットの改善を検討しましょう。
MRRを計算するには、まずユーザーあたりの平均収益(ARPU)を把握する必要があります。ARPUがわかれば、計算式はシンプルです。
月間ARPU × 月間ユーザー数 = MRR

解約率(Churn Rate)
解約率(チャーンレート)は、SaaSや月次定期収益モデルを持つ企業が顧客成功を測定する主要指標です。
簡単に言えば、チャーンとは一定期間内に製品やサービスの利用をやめた顧客の数です。チャーンレートが低いほど、顧客維持率が高くなり、MRRの増加につながります。
解約率はパーセンテージで表します。計算式は以下のとおりです。
(月初顧客数 − 月末顧客数)÷ 月初顧客数 = 解約率
スタートアップの創業者として、解約率を注意深くモニタリングすることは必須です。どのビジネスにも一定の解約は発生しますが、月次で解約率が上昇し続けているなら、競合と比較した自社の提供価値を見直す必要があるかもしれません。
繰り返しになりますが、新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりコストがかかります。解約率を低く保つことは常に最優先事項です。

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