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Published on 20 August 20266分

関税ショックでトレジャリーは経営の中枢へ

Ross Weldon
寄稿ファイナンスライター

関税ショックでトレジャリーは経営の中枢へ

毎週のように変わる関税率と、1,750億米ドルの還付をめぐる裁判所の判断により、トレジャリーマネジメントはわずか1年で戦略機能へと変わりました。

12か月前、米国政府を相手に訴訟を起こすことは、財務責任者の職務範囲外でした。しかし今年、それは期限のある意思決定となり、実行する価値があるかを判断する役割をトレジャリー部門が担うことになりました。

過去10年の大半において、トレジャリーとは流動性、資金、為替を管理する機能を指していました。今では、サプライヤー戦略、貿易ルート、市場参入、価格設定もその範囲に含まれます。迅速な判断が求められる場面では、現金とリスクの状況をリアルタイムで把握し、意思決定に間に合う速さで情報を示すことが、トレジャリー部門に求められています。

米国の平均実効関税率は12か月で2.5%から10%に上昇し、数十年ぶりの高水準となりました。その背景には、国境で徴収された2,600億米ドルがあります。その約3分の2は国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税でしたが、2026年2月に最高裁判所がこれを無効と判断したことで、最大1,750億米ドルが還付対象となる可能性が生じました。ただし、誰にいつ支払われるかについて確立した手続きはまだありません。

この記事を読む財務チームの多くは関税を支払ったことがなくても、予測は崩れました。外部環境の変化が、従来の計画サイクルで追える速度を上回って事業運営を変えるようになったからです。その変動を具体的な経営判断に置き換える役割を担うのがトレジャリーです。関税が大きく動いたこの1年は、その最も明確な例です。次の混乱が貿易、為替市場、あるいは自律的に資金を動かし始めたAIエージェントのいずれから生じても、トレジャリーは同じように対応を迫られるでしょう。

外部環境の変化が価格に織り込まれ始めた1年

関税率が安定していた頃、サプライヤー選定は価格と納期を基準にした購買判断でした。しかし、ある国の商品にかかる関税率が一夜で上がり得る状況では、1月に合意した価格が6月の支払価格とは限りません。各サプライヤーの実質コストをその都度算出する必要が生まれました。トレジャリーは、変動の影響が出た後に支払うだけの部門ではなく、変動を価格として捉える部門になったのです。

米国の中国からの輸入は1年間で約30%減少しました。買い手が生産拠点を他国へ急いで移した結果、ベトナムとメキシコがその取引の多くを引き継ぎました。現在、中国製品が米国の輸入に占める割合は10%未満で、2016年の20%超から低下しています。新たな工場を採用するには、テスト、設備調整、信頼関係の構築に数か月を要します。そこまでの投資を捨てて元に戻ろうとする財務チームは少ないため、この流れの大部分は反転しにくいでしょう。

ソフトウェア企業は、サプライヤーではなく顧客を通じて同じ変化を経験しました。サーバーやネットワーク機器が値上がりし、コストが一定であることを前提に組んだインフラ予算が崩れました。関税の影響を受ける顧客は支出を抑え、支払条件を延長しました。そのため、関税の負担は通関記録ではなく、契約更新の遅れや売掛金回収日数(DSO)の長期化として表れました。

シドニーやベルリンから米国の製造業者に販売する財務チームも、自社が関与していない政策判断の影響を受けました。商談のうち、関税の影響を受ける顧客に紐づく割合を把握することが、トレジャリーの課題になりました。その答えによって、事業がどれだけの現金を、どこに保有すべきかが決まるからです。

こうした変化は、月次決算の周期では捉えきれません。ゴールドマン・サックスは、新たな関税コストのうち消費者に転嫁された割合を約55%と推計しています。残りは企業の利益率が吸収しました。3通貨にまたがって給与、取引先への支払い、カード支出を管理しながら、それらを一元的に把握できない企業では、決算で明らかになるまで利益率の問題に気づけません。その時には、問題を解決できたはずの意思決定の機会をすでに逃しています。

政策判断がトレジャリーの期限になるとき

こうしたショックはどれも、期限のある意思決定として現れ、他部門より先にトレジャリーへ届きます。関税還付は、その最も顕著な例です。

最高裁判所が、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した際、判決によって法的な結論は出た一方、徴収済みの資金は宙に浮きました。その資金を取り戻せるかどうかは、判決直後から迫る期限までに必要書類を提出できるかにかかっています。

こうして法的判断は、期限付きのトレジャリー課題へと変わりました。申請するかどうか、また請求額に対して手続きコストが見合うかを判断するには、現金、リスク、法人構成をリアルタイムで把握する必要があります。その情報を持つ企業は数日で動きました。持たない企業は、次の報告サイクルまで待って対象額を確認しようとしましたが、数字を集めている間に申請の余地が狭まった企業もありました。

両者を分けたのは、答えを出す速さです。リアルタイムのデータを持つ3人のチームは、連結集計を待つ30人のチームより速く動けました。

かつてシナリオ分析とは、四半期に一度スプレッドシートを更新することでした。今では、再び変わり得る関税率、変更され得る裁判上の期限、3つの調達シナリオを同時に織り込み、キャッシュフローを検証することを意味します。次の取締役会を待つのではなく、事実の変化に合わせて更新し続けなければなりません。

関税以外でも同じ構図が繰り返されます。移転価格ルールの変更、データローカライゼーション規制、販売先市場のライセンス制度変更も、期限付きの意思決定として現れます。それが現金、利益率、リスクにどのような影響を与えるかを定量化する役割を担うのがトレジャリーです。

連携された財務基盤が変えるもの

トレジャリーが慎重に動くのには理由があります。損失を出さないことで評価される部門では、より良いシステムより慣れたシステムが選ばれやすく、成長に合わなくなった基盤も使い続けがちです。長い間、対応の遅さによるコストが見えにくかったことを考えれば、理解できる習慣です。

そのコストを表面化させたのが変動です。四半期終了から3週間後に決算がまとまっても、2週目に関税が動かなければ問題はありません。しかし動けば、その遅れ自体がコストになります。出来事の発生からトレジャリーが行動できるまでの時間を縮めるには、人員を増やすよりシステムを改善する必要があります。

資金移動に合わせて全法人の現金残高が見えるようになれば、利益率に関する疑問へ月末ではなく当日に答えられます。取引する通貨と国・地域の口座をあらかじめ持っていれば、その時間差はさらに縮まります。資金の受け取り、保有、送金ができるマルチカレンシー口座があれば、新市場への参入は四半期単位のプロジェクトではなく、午後のうちに進められる作業になります。支払いの後工程ではなく支払い処理の中で通貨換算が行われ、財務責任者が検証するモデルも前四半期ではなく今週の数字に基づくようになれば、意思決定までの時間はさらに短くなります。

本記事で紹介するマルチカレンシー口座など一部の機能は、日本法人向けには現在提供準備中です。海外法人では、所在国・地域と審査条件により利用できる場合があります。

&youは、シンガポールのRX Ventures傘下にあるマニラ拠点の遠隔医療プラットフォームです。同社は銀行を通じた現地口座の開設に3〜4か月を要し、それが新市場への参入速度を左右していました。投資家からの資金はある通貨で受け取り、運営費は別の通貨で支払っていました。さらに、支払いの決済に数日かかることに備え、30日分の現金を予備資金として確保していました。口座、為替、支払いを1つのプラットフォームに集約した結果、口座開設は48時間に短縮され、国際取引コストは80%削減されました。予備資金は不要となり、その資本を事業へ戻すことができました。

連携された財務基盤にも限界があります。希土類鉱物の輸出規制を解消することはできず、資本の本国送金を制限する市場のルールをなくすこともできません。これらは引き続き、計画時に織り込むべき制約です。

変動が事業運営の前提になる

関税、インフレ、金利は、同じ環境変化がもたらす現象です。外部環境は、従来の計画サイクルで追える速度を上回って事業運営を変えるようになりました。トレジャリーは、その変化を現金、支払い、資金調達、リスクに関する意思決定へ変換する役割を担っています。財務と経営戦略をつなぐ存在であり、新たな複雑性が生じるたびに、その責任範囲は広がっています。

為替を見ると、別の数字からも同じことが分かります。2025年を通じてEUR/USDは14%動きました。現在、中堅企業の約90%が為替リスクをヘッジしていますが、そのうち62%は為替変動による損失を計上しています。

トレジャリーを、これまで経験したことのない意思決定へ引き込む次の変化は、すでに形になりつつあります。VisaMastercardはどちらも今年、自律型エージェントが開始する支払いの仕組みを公開しました。バックグラウンドで継続的に発生し、中には1セント未満の取引もあります。Mastercardが示した例は、AIエージェントにオンラインショップの立ち上げを指示するというものです。1つの指示から、人の承認を介さず、設定された予算内で別々の事業者からドメイン、ホスティング、画像、決済ページを購入する一連の支払いが生まれます。

この一連の処理で、予算ルールの桁を1つ間違えたり、エージェントが失敗と判断した処理を繰り返したりする状況を想像してください。誰かが管理画面を開く前に、1,000件の少額取引が処理される可能性があります。エージェントは受け入れ時点で支払うため、照合できる請求書がないまますべて決済されます。トレジャリーはその支出を開始しておらず、処理中に承認することもできません。それでも、ウォレットの権限と上限を管理し、照合時に判明する支出の責任を負うのはトレジャリーです。トレジャリーは、自ら決めていない判断を管理し、手作業で動かしていない資金に責任を持つ方向へ進んでいます。

変動が事業運営の前提として定着するなか、次のショックを良い状態で乗り越えられるのは、事業の速度に合わせてトレジャリーが動ける財務基盤を持つチームです。次のショックが、関税や裁判所の判断のように分かりやすく現れるとは限りません。AIエージェントがすでに資金を使った後で初めて表面化するものもあります。それでも、トレジャリーはその結果に答えなければなりません。

政策変化に対応できるトレジャリーへ
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本記事は情報提供のみを目的としており、法律、規制、税務、投資に関する助言を構成するものではありません。読者は個別の状況に応じた助言について、ご自身のアドバイザーまたは専門家にご相談ください。

Ross Weldon
寄稿ファイナンスライター

Rossは、世界有数のテクノロジー企業や決済企業向けに10年以上にわたり執筆してきた経験豊富なファイナンスライターです。以前はAdyenでグローバルコンテンツを統括し、深い専門知識を培いました。越境EC、組み込み型決済、データに基づくインサイト、eコマースのトレンドなどを執筆しています。

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