本記事は、Airwallex共同創業者兼CEOのJack Zhangの考えをまとめたものです。
グローバル決済の世界は、外から見ると分かりにくいものです。多くの企業が、ほぼ同じ言葉で自社を語ります。「速い」「グローバル」「最新のビジネスに対応」といった言葉です。プラットフォーム間でUIの違いすら分かりにくいのが実情です。しかし、グローバルな資金の流れをどう実現するかという点では、企業によって取っているアプローチが根本的に異なります。この違いにこそ、注目する価値があります。
現在の主要なプレイヤーには、明確に異なる三つの道があります。テクノロジーを使って既存の決済網を迂回する企業、既存のインフラを抽象化して複雑さを覆い隠す企業、そしてインフラそのものを再構築するという困難な課題に挑む企業です。
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最も手軽な道とは? 既存決済網の迂回(ステーブルコイン)
ステーブルコイン(法定通貨に連動し、パブリックブロックチェーン上で決済されるデジタル資産)は、この分野で最も注目される新しい技術です。ほぼ即時の決済、低コスト、従来の決済網では対応しにくかった送金経路へのアクセスを実現します。特に個人向け・消費者向けの用途では、改善効果が顕著です。
ただし、現時点のステーブルコインは、大規模な企業間決済にはまだ対応しきれていない可能性があります。規制の枠組みは国・地域によってばらばらで、法定通貨との交換には手間とコストがかかります。説明責任、ライセンス、マネーロンダリング対策(AML)に関するコンプライアンスの論点も、世界的にまだ議論の途上です。これらは解決可能な課題であり、環境は成熟すると期待しています。しかし現時点では、本格的に採用するために、多くの企業が対処しきれない複雑さを乗り越える必要があります。
中間の道とは? 既存インフラの抽象化(パートナー型金融サービス企業)
三つの道の中間に位置するのが、多くの金融サービス企業です。既存のインフラを置き換えるのではなく、パートナーや仲介業者と協力して複雑さを覆い隠し、より素早くサービスの範囲を広げるという、合理的で短期的な判断をした企業群です。
このアプローチには、明確な即効性があります。こうした企業は中継銀行の複雑さを見えなくし、利用開始の手続きを簡素化し、料金体系を明確にし、決済時間を短縮します。顧客にとっては確かな改善です。しかし基盤となるインフラ(中継銀行の連鎖、二国間関係、コンプライアンス上の依存関係)は、そのままです。
優れたUIの構築はソフトウェアの問題ですが、グローバルな価値交換の基盤を置き換えるのは、はるかに大きなインフラプロジェクトです。困難で時間がかかり、多大なリソースを要するため、挑戦する企業はごく少数です。2026年の今、洗練されたインターフェースはもはや当たり前です。それだけでは、グローバル決済の仕組みを根本から変えることにはなりません。
最も困難な道とは? グローバルインフラの再構築(Airwallex)
Airwallexは、他社とは異なるアプローチを採りました。そこに至るまでには長い時間がかかりました。
まず、Airwallexは事業を展開する各法域で直接ライセンスを取得し、現地に拠点を構えています。米国・英国・オーストラリア・カナダ・日本などの主要な経済圏から、ベトナム・インドネシア・メキシコ・UAEといった新興市場、さらに米国の送金業者ライセンス(MTL)における州ごとの規制当局まで、多くの市場で多数の規制当局と対話しています。この関係は、仲介業者経由ではなく、直接ライセンスを保有する事業体として、規制当局との継続的な対話を通じて維持しています。
これは根本的な違いです。パートナーネットワークを通じた新市場への参入は、立ち上げを加速するかもしれません。しかし、コンプライアンスの要件、ツール、責任が、仲介業者の連鎖に分散してしまいます。自社でライセンスを保有すれば、最終責任は自社が負います。
この選択は、厳しい目にさらされることも意味します。責任を引き受けた以上、規制当局はより直接的に関与してきます。一般的な金融サービス企業と比べて、より多くの検査、報告義務、業務の透明性を求められます。ライセンスを保有する各法域の詳細な報告要件に直接対応する日々ですが、この深い関与が、より強固な企業をつくると考えています。
ではなぜ、この道を選んだのでしょうか。海外送金は今も、中継銀行や地域の決済集約事業者に依存していることが多く、資金は銀行や現地決済事業者のネットワークを経由し、その都度、時間と手数料が積み重なります。この連鎖に依存する企業は、連鎖のリスクをそのまま抱え込みます。パートナー関係の変化、中継銀行のリスク許容度の変化、直接対応を求める市場の出現といった要因が、気づかないうちに脆弱性を生みます。インフラを自社で保有すれば、時間をかけてこうしたリスクを減らせる。それが私たちの目指すところです。
10年後・20年後にグローバル金融インフラの基盤を担うのは、規制当局と直接の関係を築き、コンプライアンスの枠組みを一貫して自社で保有し、迂回路を探すのではなく適正なコストを受け入れた企業だと考えています。それは常に費用がかかり、地道で、時間のかかる道でした。AIの台頭により、ソフトウェアが自律的に資金を動かす時代が近づく今、その土台となるインフラの信頼性はさらに重要になっています。だからこそ、これは正しい投資だと考えています。
決済基盤の未来はどうなる?
結局のところ、顧客が求めているのはプロダクトです。基盤を自社で保有しているからこそ、グローバル企業が長年支払い続けてきた「分断コスト」を減らせると考えています。国内決済や決済の一部分に特化した事業者とは異なり、Airwallexは資金のライフサイクル全体(受け取り、保有、送金、支払い)を統合することを目指しています。複数のプロダクトを利用する顧客が増えていることは、重要な示唆です。一つのプラットフォームでコストを減らすことは、インフラと同様に、積み重ねるほど効果が大きくなります(複数プロダクトのうち、日本法人向けに提供しているのはオンライン決済です)。
Airwallexのアプローチは、現地ライセンス、現地拠点、規制当局との関係を通じて自ら基盤を構築することです。これにより、現在そして将来のあらゆる金融プロダクトで、その基盤の上に新たな価値を築く機会が生まれます。ステーブルコイン、新たな決済網、新興の決済清算の仕組みは、脅威ではなく、顧客のために評価・統合できる機会になります。
また、商取引の自動化が進み、ソフトウェアが企業に代わって自律的に資金を動かし、取引を実行し、流動性を管理するようになれば、基盤となるインフラの質がきわめて重要になります。
ステーブルコインの世界とライセンス型インフラの世界は、必ずしも対立するものではありません。ステーブルコインが成熟し、独自の規制要件に直面するにつれ、根本的な問いは私たちが答え続けてきたものと同じになります。誰が、どの法域で、どの枠組みの下で責任を負うのか、という問いです。技術は異なっても、コンプライアンスの課題は収斂していきます。
私たちはこのやり方で10年間つくり続けてきました。このインフラが持続的に機能するのは、規制に準拠しつつも柔軟で、規制要件や技術的機会の変化に逆らうのではなく、ともに進化するよう設計されているからです。規制当局との直接的な関係は避けられない変化に先手を打つ力を与え、柔軟な技術はその変化に即応する力を与えます。コストは高く、時間もかかりました。しかし近道があふれる世界において、それこそが要点です。
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Jack Zhang
共同創業者 兼 最高経営責任者


