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Published on 22 October 2026•5分

平均値の先を見る:財務の計画づくりにAIをどう使うか

Seng Chiy Goh
戦略財務責任者

平均値の先を見る:財務の計画づくりにAIをどう使うか

財務チームが事業をどう見ているかは、どこまで調べる時間があるかによって、ある程度決まってしまいます。

これまでAirwallexでは、ある製品、市場、費用項目をもう一段深く分析しようとすると、データを新たに取り出し、スプレッドシートを作り、さらに管理の必要な計算を増やすことになりました。少人数で運営する戦略財務・FP&A(財務計画・分析)チームは、限られた手間をどこに振り向けるかを選ぶ必要がありました。

AIは、この制約を2つの方法で和らげています。1つは、アナリストがAIを使い、自分の業務に合ったツールを自分たちで作ることです。もう1つは、AIエージェント(人の指示を受けて調査や作業を進めるAI)に事業上の疑問を調べさせ、いくつもの角度からの分析を同時に進めることです。本記事では、FP&AにおけるAI活用の実例として、データ基盤、予算づくり、予測、分析結果の見極め方を紹介します。

AI活用の土台は、現場の担当者が設計したデータ基盤

Databricksへのデータ移行に合わせて、全社のデータ基盤(会社のデータを整理して集める仕組み)を作り直しました。設計は財務部門が主導し、技術面の構築はエンジニアリング部門が担いました。まず、どんな意思決定をする必要があるかを洗い出し、そこから逆算して、必要なデータとその定義を決めました。

会計の記録に事業の背景情報を加えた、統合版の台帳を作りました。また、売上データの基盤を強化し、数字の定義を「データ辞書」(項目ごとの意味をまとめた資料)と、AIツールが参照できる補足情報にまとめました。これにより、社内の各チームが同じ数字を前提に話せるようになりました。「どちらのデータが正しいか」を確認する時間が減り、数字の意味を議論する時間が増えています。

この基盤の上で、アナリストはAIの助けを借りてプログラムを書き、予算づくり、予測、数字の増減の分析(前期や計画との差を調べる作業)に使うツールを、自分たちで作って保守しています。これらのツールは、財務の計算、データを自動で集めて整える仕組み、画面上で操作できるグラフを組み合わせたものです。AIは、記録の分類や、調べるべき増減の要約を手伝います。

アナリストはこれらのツールを毎日使っています。どんな例外的なケース(通常の処理に収まらないもの)に対応が必要か、どんな比較が足りないか、次にどんな疑問が出てくるか。それを知っているのは現場の担当者です。だから、業務の変化に合わせて、自分たちでツールを改善できます。

予算管理にAIを活用し、細かい単位の把握を保つ

財務部門全体で約600の業務を洗い出したところ、どこに力を入れるべきかが見えてきました。予算づくりには判断が必要なので、最初から最後まで自動化するのは難しい作業です。ただ、その準備の多くは、提出内容の確認、形式の統一、比較資料の作成です。

Airwallexでは予算を細かい単位で組むため、この準備は特に負担の大きい作業でした。1ドル単位でお金の使い道を把握し、実際の支出が当初の決定どおりかを追いかけたいからです。この状態を保つには、以前は数万件の記録を突き合わせ、データの取り出しをやり直し、数字が変わるたびに比較資料を作り直す必要がありました。

そこでチームは、この作業をまとめて処理する「FP&Aハブ」(財務の計画・分析に使う情報を一か所に集めたシステム)を作りました。AIは、毎月約3,000件の会計仕訳(帳簿への記録)を予算項目と照らし合わせる作業を手伝い、調べるべき増減を要約します。損益計算書(P&L)の全体から、個々の費用項目や過去の推移まで、新しいスプレッドシートを作らずに掘り下げられます。

このハブには、毎月の実績が出そろい次第、最新のデータが取り込まれます。そのため、数か月かかる予算づくりの途中でも、開始時点のデータではなく、最新の実績をもとに予算申請を評価できます。

予算づくりのツールは、各部門から提出された予算案を受け取った時点で内容を確認し、集計します。これまでアナリストが手作業で合わせていた書式の違いにも対応します。これにより、提案された支出の全体像を早い段階でつかめるようになり、各チームと選択肢を検討する時間が増えました。計画をまだ変えられる段階で、なぜその支出が必要なのかを問い直し、ほかの案を検討し、成功をどう測るかを合意できます。

予測が当たっても、理由が合っているとは限らない

AIは、調査の進め方そのものも変えています。アナリストはAIエージェントに指示して、データを異なる切り口から同時に分析させます。すべての比較を手作業で作らなくても、見つかった点をさらに掘り下げられます。

Airwallexの事業の多くは取引の量に左右され、国、製品、販売経路にまたがっています。季節による変動、平日と週末の割合、顧客層ごとの違いが、1か月の数字の動きに影響します。スプレッドシートで扱いやすくするため、これまでは、より大まかな平均値に頼ることが多くありました。AIを活用したツールによって、今では当月や当四半期について、こうしたパターンをより詳しく分析できます。

これは、合計が計画に近い値に着地した場合でも重要です。既存顧客の取引が好調で、新規顧客の伸びの弱さを打ち消しているかもしれません。その月の数字は当たっても、今後の四半期に影響する変化を見逃すおそれがあります。こうした背後の動きはAIで調べ、営業など現場の部門と一緒に、その動きが続きそうか、どう対応すべきかを判断しています。

調査の中で役に立つ分析の方法が見つかったら、繰り返し使える手順にします。どのデータを調べ、何と比べ、結果をどう確認するかを決めておくことで、他部署のメンバーも、財務部門が同じ作業をやり直すのを待たずに、新しいデータで同じ分析を実行できます。

分析結果のどれを信じるか、どう見極めるか

分析できる量が増えれば、検討すべき説明も増えます。ある発見が信頼できるのか、そして意思決定にとって重要なのかを見極める必要があります。

顧客獲得コストの回収期間(顧客を獲得するためにかかった費用を、その顧客から得た粗利で取り戻すまでの期間)を例に考えてみます。これが改善した場合、似た顧客層の中で収益性が高まったのかもしれませんし、顧客の構成が変わったのかもしれません。あるいは、ごく一部の非常に大きな顧客にリターンが集中しているだけかもしれません。私たちのツールを使えば、市場や販売経路をまたいで調べ、獲得から同じ段階にある顧客どうしを比べ、リターンがどう分かれているかを確かめることが現実的になります。改善がどこで成り立っているのか、追加投資で再現できるのかを評価できます。

一方で、細かく分析できるほど、たまたまのばらつきを意味のある兆候と取り違えるおそれも増えます。複数の発見が同じ傾向を裏づけているように見えても、実はすべてが同じ少数の顧客や取引によるものかもしれません。ただし、飛び抜けた顧客は平均値をゆがめる一方で、追う価値のある機会を示していることもあります。その顧客がなぜ価値を生んだのか、似た顧客をもっと見つけて支えられるかを見極める必要があります。

そのため、若手を含むアナリストに求められる思考のハードルは上がっています。意思決定を軸に問いを立て、推論の筋道をたどり、それぞれの説明が正しいとしたら、ほかにどんなことが成り立っているはずかを考える必要があります。自分の結論を覆しうる証拠も、自ら探さなければなりません。計算の確認は引き続き欠かせませんが、提言を評価するうえでは、その一部にすぎません。

いつ調査をやめるかを見極めることも、その判断の一部です。追加の分析を頼む前に、その結果で提言がどう変わりうるのかを、はっきりさせておくべきです。たとえば、あるマーケティングの経路で支出を増やしても同じ程度のリターンが得られるか分からない場合は、予算を限られた範囲で増やして試し、獲得コストと、その顧客が生む売上を継続的に追跡できます。その結果があれば、同じ過去データをもとにシナリオを増やすのではなく、新しい証拠をもとに、投資を広げるかどうかを判断できます。

検討できる戦略の幅を広げる

現在、予算や計画のツール、予測、原因を探る分析を一つにまとめ、複数の投資判断が互いにどう影響し合うかを検証できるようにしています。たとえば、市場や販売経路の間で支出を移すと、獲得する顧客、その顧客への対応に必要な体制、そして生み出すリターンが変わる可能性があります。

こうした「あちらを立てればこちらが立たず」という関係は、すでに計算できる形にしています。今の重点は、分析を一から作り直さなくても、より多くの組み合わせを試し、見直せるようにすることです。実際の結果を当初の想定と比べ、前提を問い直し、学んだことをその後の意思決定に生かしていきます。

私たちは、少人数のチームでも深い分析ができるようにするところから始めました。今後は、同じ深さの分析を、はるかに幅広い戦略的な判断に広げたいと考えています。目指しているのは、これまで思いつかなかったかもしれない成長の道筋を見つけ、どれを追うべきかを決めるための、より確かな根拠を事業にもたらすことです。

本記事は情報提供のみを目的としており、法務、規制、税務、投資に関する助言を構成するものではありません。個別の状況に応じた助言については、ご自身のアドバイザーや専門家にご相談ください。

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Seng Chiy Goh
戦略財務責任者

Seng Chiy Gohは、Airwallexの戦略財務責任者です。事業部門のリーダーと連携し、長期戦略づくり、事業の収益力の向上、資本と経営資源の配分方針の決定を通じて、収益性の高い持続的な成長を支えています。

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