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Published on 2 October 2026•6分

決算を締めるまでの日数をゼロへ:経理部門は、統制を保ちながらAI活用をどう広げたのか

Ralph Karsten
グループ経理責任者

決算を締めるまでの日数をゼロへ:経理部門は、統制を保ちながらAI活用をどう広げたのか

確かなデータ基盤と、AIで仕組みをつくる自由。その二つがそろうと、何が変わるのでしょうか。

私がAirwallexに入社してからの4年間で、年間の経常収益を示す指標(ARR)は、1億米ドルから13億米ドルへ、13倍に成長しました。私にとって最もやりがいがあるのは、この数字の背景にある取り組みを伝えることです。業務フローと技術を継続的に改善することで、人員を大幅に増やさずに、はるかに多くの業務を担ってきたチームを、私は誇りに思っています。

AirwallexはAI活用を重視し、早くから導入を進めてきた企業です。そのため、経理部門でも新しいツールを取り入れ、業務フローにAIを組み込む余地が自然と生まれました。経理部門の土台となる仕事は、ほかの部門が安心して使える、信頼性が高く、帳簿と突き合わせ済みのデータを提供することです。財務データが日々の業務の中で自然に整合していれば、それをもとに信頼できるAIの業務プロセスを構築できます。

※サービス提供状況:グローバル口座(外貨口座)、海外送金・両替、法人カード、経費管理、請求書支払い、会計ソフト連携は、日本法人向けには現在提供準備中です。海外法人の場合は、法人の所在国・地域と審査条件により利用できる場合があります。日本法人が現在ご利用いただけるのはオンライン決済です。

年間数十万時間に及ぶ業務を可視化して分かったこと

仕事をAIに任せる前に、まず業務そのものとデータを理解し、どこに負担や滞りがあるのかを把握しなければなりません。そこで私たちは、業務の可視化から始めました。最近、財務部門全体で実施した現状を把握するための業務整理では、各チームが業務プロセス、実施頻度、所要時間、現状と目指す状態を記録しました。これによって、自動化がどこまで進んでいて、どこに改善の余地があるのかが、はっきりと見えるようになりました。

経理部門には、共通業務を集約する拠点である「シェアードサービスセンター(SSC)」が2つと、6つの地域の経理チームがあります。SSCは、グローバルで共通する定型的な財務・経理業務を集約します。一方、各地域のチームは、現地の社内チーム、規制当局、外部の関係者との関係づくりに力を入れます。あわせて、ライセンスの取得や事業拡大に関わる事項全般も支援します。

この業務整理から、次に取り組むべきことを決めるうえで重要な、3つの発見がありました。

1. 繰り返し発生する業務には、自動化の大きな余地がある

調査で把握した年間の業務時間は数十万時間に及び、その中で経理部門が最も大きな割合を占めていました。経理部門の業務の86%は、頻繁に繰り返し発生するものです。ここには、自動化によって戦略的な仕事に使える時間を増やす、大きな余地があります。毎日行う業務なら、小さな自動化でも、その効果は積み重なります。

Mapped tasks across the Finance function

図1:財務部門全体の業務を可視化した結果。頻繁に繰り返す業務(日次〜半期ごと)と、年次・随時業務の割合。

部門

頻繁に繰り返す業務

年次・随時業務

経理(Controllership)

86%

14%

財務計画・分析(FP&A)

56%

44%

戦略財務(Strategic Finance)

52%

48%

税務(Tax)

56%

44%

資金管理(Treasury)

96%

-

2. 地域のチームは、定型業務に押されて本来の仕事に手が回らない

SSCに比べると、地域のチームでは年次・随時業務が多く、その割合は約40%です。多くは、規制当局からの要請への対応や現地の事情に即した判断など、規制やコンプライアンスに関わる戦略的な仕事です。定型業務を自動化すれば、各地域の経理責任者が、こうした戦略的な仕事に充てる時間を増やせます。

Controllership

図2:経理部門のチーム別に見た、頻繁に繰り返す業務と年次・随時業務に費やす年間時間の割合。

チーム

頻繁に繰り返す業務

年次・随時業務

SSC:会計(Accounting)

100%

-

SSC:買掛金・出張経費(AP/T&E)

100%

-

香港・シンガポール(HK/SG)

73%

27%

SSC:調達(Procurement)

100%

-

中国(CN)

61%

39%

オーストラリア・ニュージーランド(ANZ)

58%

42%

米州(AMER)

79%

21%

欧州・中東・アフリカ(EMEA)

63%

37%

グループ(Group)

61%

39%

3. 技術にも、役割を果たせる期間がある

かつてはうまく機能していたシステムが、業務の足かせになることがあります。経理部門で最も時間のかかる業務として挙がったのは、調達プロセスでした。現在使っているOracleの調達ソリューションが、私たちの業務運営のあり方に合わなくなっているためです。組織がより速く動くようになった今、年内に自社製品へ切り替え、さらに自動化を進めるとともに、現行プロセスで見つかった課題の一部を解消する予定です。

AIを支える本当の基盤は、信頼でき、照合の取れたデータ

AIを使った業務プロセスの質は、そのもとになるデータの質に左右されます。データ基盤を構築するには、まず得たい知見から逆算し、そのために必要なデータを特定したうえで、基盤を一から設計し直す必要がありました。

ERP(企業の基幹業務を統合して管理するシステム)の導入を例に挙げましょう。導入時に、私たちは一度立ち止まり、「どのような成果を生みたいのか。その後の業務に役立つ重要なデータは何か」と考えました。そして、勘定科目の一覧(勘定科目体系)に取引先を示す列を追加し、すべての経費、未払費用(発生したものの、まだ支払っていない費用)、コストを特定の取引先とひも付けました。この一つの変更で、実績と予算のずれを細かく分析する「差異分析」を自動化できるようになりました。今では、AIが取引先別・部門別に実績と予算を比較し、高度な差異分析を自律的に行えます。そのため決算業務の効率が上がり、より深い分析もできるようになりました。

さらに、コストを予算明細に直接ひも付ける「Budget ID」も作りました。損益計算書(P&L)上のすべてのコストの記録が、特定の予算明細につながるため、各部門は予算に対する進捗を正確に把握できます。データを積み上げて集計するうちに詳細が失われていく、従来型のスプレッドシートに頼る必要はありません。最も細かな単位までひも付けをたどれるため、各部門の支出実績、予算、損益を、食い違いのない形で確認できます。これを可能にしているのは、基盤の中心にある、整理された信頼性の高いデータです。

AIによって、経理部門が担える範囲が広がる

データ基盤とAIが整ったことで、私たちは事後的に数字を確認する段階から、その数字の背景で何が起きているかを継続的に把握し、検証し、統制する段階へと移りつつあります。目指しているのは、照合、レポート作成、分析をほぼリアルタイムで行う、継続的な決算の仕組みです。

経理部門が担う範囲は、以前よりもはるかに広がりました。外部に頼らず自分たちで対応できる業務の量も、短期間で大きく増えています。以前は決算を締めるのに10日かかっていましたが、今は、その日数をゼロにする「ゼロデイ決算」に向けて進んでいます。

こうした日数の短縮は、再構築したばかりのデータ基盤がなければ、実現できませんでした。そして、その基盤は、仕組みをつくれる人の範囲も変えました。データ部門やエンジニアリング部門以外の人も、基盤を直接活用して開発できるようになり、実際に開発を始めたのです。

財務・経理の現場が、現場のためにつくるAIソリューション

AIによって、財務チームが自ら開発できるものは大きく増えました。その中でも最も大きな成果を生んでいるのは、業務を最もよく知る人たちです。確かなデータ基盤があり、自由に開発できる環境が整うと、メンバーは手作業を減らし、プロセスを改善するために、自分たちでソリューションやAIツールを作り始めました。こうして、専門の開発者ではない現場の担当者による「市民開発」のプロジェクトが次々と生まれました。

たとえば、エンジニアリングの経験がないシニア経理担当者の一人は、独学でコーディングを学び、手作業で行っていた給与データの集約を、2日から10分に短縮しました。それまでは、15個のファイルを取り出し、匿名化する必要がありました。この取り組みでは、1か月以内に投資を回収できました。

別のメンバーが開発したのが「AirQuire」です。当初は、MacユーザーがOracle(会計システム)に直接仕訳(取引の帳簿への記録)を登録できる、総勘定元帳(GL)への転記ツールでした。これは、Oracleでは対応していなかった機能です。財務・経理の業務フローを理解する人が作ったため、取引データの入力時に、明細の説明や必須項目が正しく記入されているかを確認し、データを自動的に補完する機能も備えています。入力する時点で、データの品質を高められるのです。開発はそこで終わりませんでした。このメンバーは、一連のプロセス全体から負担を取り除けることに気付き、最初の課題を解決する以上の改善を進めました。今では、簡易入力、一括アップロード、Web上の表への直接貼り付けにも対応しています。

成果を広げるために、取り組みを一元化する

財務・経理で難しいことの一つは、各地域のコンプライアンス、税務、報告要件の違いに対応しながら、業務プロセスをシンプルに保ち、グローバルで統一することです。市民開発のプロジェクトは大きな成果を上げていました。しかし、この自由な環境では、3つの地域が互いの取り組みを知らないまま、同じ課題の解決にそれぞれ何週間も費やしてしまうおそれもありました。

そこで私は、すべての地域をつなぐ中央の運営委員会を設け、取り組みを一つにまとめるAIイノベーションプログラムを立ち上げました。導入するすべてのAIプログラムについて、必要な文書の基準を定めています。開発の要件をまとめる「PRD(プロダクト要件定義書)」の作成も求めています。PRDは、開発内容や今後の計画(ロードマップ)を整理するもので、最終的には品質の高いプロダクトにつながります。

このプログラムが成果を上げたため、より多くの市民開発者を後押しできるよう、財務部門全体へ広げました。CFOのPranavも、財務部門全体の変革を支援するエンジニアを採用しました。あわせて、運営ルールや管理体制(ガバナンス)も強化しています。ただし、こうした管理体制で管理できるのは、人がすでにつくろうと決めたものです。課題を自ら探す姿勢までは生み出せません。そして、その姿勢を育てるほうが難しいのです。

AIの可能性を広げるのは、物事の考え方

現状の業務を整理したところ、業務に最も近い人たちの間で、課題を自ら探す姿勢が育ち始めていることが分かりました。専門知識があり、自分の業務プロセスをよく見渡せる人たちは、財務・経理の中でどこに最も大きな改善の余地があるかを見つけるのに、最も適した立場にいます。そのためには、自分の業務をより深く、筋道を立てて考える必要があります。そもそもなぜそのプロセスがあるのかを問い直し、AIに何ができるのかを理解することです。この力は、まだ鍛えていく途中です。業務の進め方そのものを設計し直すことにも、前向きでなければなりません。

私自身も、物事を一直線に考えてしまい、もっと発想を広げる必要があると感じることがあります。今取り組んでいる課題の一つは、チーム全員とこの変革を進め、何が可能かを自ら見つけられるチームと基盤をつくることです。全員が開発を仕事にする必要はありません。それでも、全員に、つくる人の視点で考えてほしいと伝えています。この考え方が、これからご紹介する取り組みすべての根底にあります。

これから注力する4つの領域

実現したいことは、まだ数多くあります。今後のロードマップで、次に力を入れている4つの領域をご紹介します。

1. AgentOSを導入する

Airwallexが新たにリリースしたAgentOSは、あらゆる大規模言語モデル(LLM)をAirwallexの基盤につなぎます。これにより、財務領域で新たな自動化の機会が広がります。たとえば、私たちの社内では、AIが自律的に作業を進める「エージェント」が、営業部門の新入社員に関する人事データを読み取り、社内ポリシーに沿ってシステム上のユーザーアカウントを自動で作成し、Airwallexの法人カードを発行しています。また、ERP上の残高が社内で定めた望ましい上限を超えたときに、グループ会社間の精算を準備するエージェントも開発中です。実際に資金が移動する前には、すべての精算について、引き続きAirwallex内で人の承認が必要です。次は、この接続をさらに活用し、ユーザーのアクセス権限を更新・監査することで、常にポリシーに沿った状態を保ちたいと考えています。

2. 決算とグループ全体の集計(連結)を、より速く進める

月次、四半期、年次で貸借対照表の数字がなぜ変動したかを、AIが自ら説明する増減分析を開発しています。また、元データと突き合わせて外れ値を自動で見つける、システム組み込みの照合機能も開発中です。これと並行して、グループ全体の数字を合算する際に、現在チームが手作業で作成している「連結仕訳」(合算のための帳簿記入)と「消去仕訳」(グループ会社間の取引の相殺)を自動化し、ワンクリックで連結処理を行えるようにすることも目指しています。

3. 事業を展開するすべての地域で、報告の一貫性を保つ

各地域の法人で、会計方針の記述、勘定科目の対応付け、開示、レイアウトを統一する、財務諸表の自動作成ツールを開発しています。効率化に加え、このツールによって、社外に共有するすべての財務諸表をグループの担当チームが管理できるようになります。

4. 定期的なコンプライアンス業務から、手作業を減らす

グループ会社間の取引価格を決める「移転価格」について、3つの価格設定モデルにまたがるグローバルな計算を自動化するAIツールを開発しています。計算のたびにロジックを手作業で組み直す代わりに、人事とERPのデータを直接取り込みます。また、Slack上で普段の言葉で指示するだけで、納品の受領登録、発注書の完了処理、営業費用(OPEX)の未払計上ができるAIの業務フローも作っています。

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本記事は情報提供を目的としたものであり、法律、規制、税務、投資に関する助言ではありません。ご自身の状況に応じた助言については、専門家または法律顧問にご相談ください。

Ralph Karsten
グループ経理責任者

Ralph Karstenは、Airwallexのグループ経理責任者です。数年にわたる急成長と複数回の資金調達を通じて、財務部門を支えてきました。財務を成長に貢献する部門として捉えることを積極的に提唱し、急成長する企業に向けて、AI活用に備えたデータ基盤づくりや最新の予算管理について、執筆や講演を行っています。

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