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Published on 3 August 20264分

AIの課題は「知能」ではなく「文脈」にある

Ross Weldon
Contributing Finance Writer

AIの課題は「知能」ではなく「文脈」にある

優れたAI活用を支える、目に見えないデータ基盤

AIの課題は「賢さ」だと思われがちです。しかし、本当の課題はそこではありません。AIが判断に必要な背景情報、つまり「文脈」を十分に持てていないことです。人の手を介さずに動いている財務業務は、わずか11%にとどまります。ボトルネックはAIそのものではなく、その土台となるデータの仕組みにあります。

※特に記載がない限り、本記事内の統計は、Airwallexの委託によりForrester Consultingが2026年6月に実施した調査「Building An AI-Ready Finance Function」に基づきます。

1900年当時、米国マサチューセッツ州のある綿織物工場では、天井に設置された1本の回転軸から革ベルトを垂らし、すべての織機を動かしていました。動力源は蒸気から電気モーターに変わっていたものの、工場の仕組み自体は昔のままでした。

スタンフォード大学の経済史家ポール・デイヴィッドは、電力の導入が生産性の向上につながるまでに約40年かかったことを示しています。工場の経営者が古い回転軸を撤去し、織機ごとにモーターを取り付け、新しい仕組みに合わせて工場全体を作り直して、ようやく電気の力を生かせるようになったのです。

今、財務部門はAIで同じ過ちを繰り返そうとしています。多くのAI戦略は、新しいソフトウェアを導入することと、それを生かせる業務基盤を整えることを混同しています。AIの利用は増え、予算は拡大し、経営会議では次々と実証実験が承認されています。それでも、Airwallexの委託によりForrester Consultingが財務部門の意思決定者1,279人を対象に実施した2026年6月の調査では、人の手を介さずに動く財務業務は全体の11%にすぎませんでした。

原因は、現在のAIモデルの能力不足ではありません。多くの企業が、AIの登場よりはるか前に作られた、分断されたデータ環境を今も使っているためです。完全で信頼できる背景情報をAIに与えない限り、AIは助言者にはなれても、実際に業務を担う存在にはなれません。

財務AIを動かすのは、指示文ではなく「文脈」

私たちが普段目にするAIは、システム全体のごく一部です。チャット画面やおすすめ情報、注意が必要な取引を知らせるアラートなどが、それに当たります。

しかし、その裏側には、AIが単に提案するだけなのか、それとも安全に判断して実行まで担えるのかを左右する業務基盤があります。

たとえば、AIが支払いを承認するには、請求書の内容だけでは足りません。どの法人の資金を使うのか、資金はどの通貨で保有されているのか、別の支払いがすでに処理待ちになっていないか、誰に承認権限があるのか、その取引が現地の規制に沿っているか、といった情報も必要です。

こうした情報は、AIモデルそのものが持っているわけではありません。AIの土台となるデータ基盤が、判断に必要な文脈を提供するのです。

AIが実際に業務を担うために必要な3つの層

AIが提案だけで終わらず、実際に業務を安全に実行するには、次の3つが必要です。

  1. データ基盤 国や法人をまたいでも、残高、取引、承認状況、法人情報を一貫して確認できる仕組みです。

  2. 業務フロー AIがその都度人に許可を求めるのではなく、社内ルールに沿って安全に動ける承認手順や管理体制です。

  3. 金融インフラ 取引を現実の世界で実行するために必要な金融ライセンス、決済ネットワーク、カードネットワークとの接続です。

どれか1つでも欠ければ、AIは提案までしかできません。3つが揃って初めて、AIは安全に判断し、実行まで担えるようになります。

分断されたシステムが、AI活用をデータの段階で止めている

Forresterが財務部門のリーダーにAI活用を拡大できない理由を尋ねたところ、65%が「財務データが分散し、一貫していないこと」を挙げました。また、61%が「国や法人をまたぐシステム連携の複雑さ」を挙げています。この2つは、根本的には同じ問題です。

データやシステムが分断されていると、AIは決まったパターンで判断を誤ります。

  • 支出額は見えていても口座残高を把握できないAIは、残高を超える購入を承認してしまいます。

  • 口座残高は見えていても処理待ちの入出金を把握できないAIは、本来止める必要のない支払いを止めてしまいます。

問題はAIモデルではなく、判断材料となる文脈が欠けていることです。こうしたミスが起きるたび、財務チームは新たな制限や承認手順を追加することになり、業務はさらに複雑になります。

一方、データ基盤が統合されていれば、状況は変わります。すべての支払い、残高、承認、決済処理の状況が、同じ信頼できる環境で確認できるからです。AIは断片的な情報に頼らず、十分な根拠を持って判断できるようになります。

普段は見えない、重要な土台

AIによる自動的な財務判断は、複数のインフラが連携することで初めて成り立ちます。

金融ライセンスは、資金をどの国・地域へ合法的に移動できるかを決めます。各国・地域の決済ネットワークへの直接接続は、資金移動の効率を左右します。カードネットワークへの加盟、取引データ、業務上の管理ルールは、AIが次に何をすべきかを判断するための文脈になります。

一つひとつはインフラへの投資に見えるかもしれません。しかし、これらを組み合わせることで、より大きな価値が生まれます。企業のお金の動きを一元的かつ信頼できる形で把握し、AIが判断に利用できるようになるのです。

この土台は、短期間では構築できません。

Airwallexは過去10年にわたり、グローバルに事業を展開するために必要なインフラへ投資してきました。現在では、世界で85以上の金融ライセンスを保有し、米国45州で認可を受けた送金事業者として事業を展開しています。また、120以上の国・地域で現地の決済ネットワークに直接接続し、取引の90%以上をSWIFTを介さずに処理しています。

これらは、もともとAIのために行った投資ではありません。国境を越えて資金を動かすには、信頼性、各国・地域の規制への深い理解、整備された業務基盤が欠かせないためです。AIが進化した今、この同じ土台が、財務業務を自動化するための前提条件になっています。

事業上の効果は、すでに表れています。Minor Hotelsは、分断されていた決済システムをAirwallexの単一プラットフォームに置き換え、同一通貨での決済と現地での決済処理を活用することで、年間700万米ドル以上を削減しました。業務の複雑さを減らす統合基盤は、同時に、AIが財務業務を安全に自動化するために必要な、一貫したデータと文脈も提供します。

セキュリティは、AI活用を支える柱

AIが財務業務でより大きな権限を持つようになるほど、その判断の安全性は、土台となる管理体制に左右されます。支払いを承認したり資金を移動したりできるAIの安全性は、本人確認、アクセス権限、操作履歴の記録がどれだけ適切に整備されているかによって決まります。

セキュリティが弱ければ、リスクが高まるだけではありません。AIに任せられる業務の範囲も狭くなります。十分に信頼できないシステムに、重要な判断を任せる財務チームはいないからです。

そのため、今ではセキュリティの仕組みもAI基盤の一部です。AIに十分な文脈を提供する統合基盤は、同時に、誰がデータへアクセスできるのか、どの操作が許されるのか、すべての判断をどのように記録するのかも管理しなければなりません。

AIを備えた財務プラットフォームを検討する際、確認すべきなのは「AI機能があるか」だけではありません。その機能を支えるセキュリティ基盤が、大規模な財務業務の自動化に耐えられるほど強固かどうかも重要です。

AIの成果を左右するのは、その下にある仕組み

電化の時代に成長した工場は、いち早く電気モーターを購入した工場ではありません。電気を生かせるように、工場全体を作り直した工場でした。

今、財務部門も同じ転換点を迎えています。

AIから大きな成果を得る企業は、単により高性能なAIモデルを導入する企業ではありません。システムを連携し、取引データを一貫した形に整え、あらゆる判断に必要な文脈をAIへ提供できる基盤を構築する企業です。

金融ライセンス、決済ネットワーク、セキュリティが重要なのは、この土台を強くするからです。AIは目に見えやすい革新ですが、財務業務の自動化を可能にする本当の競争力は、その裏側にあるデータ基盤です。

AI時代に対応できる金融基盤で、自社の財務環境を整えましょう。

本記事は情報提供のみを目的としており、法務、規制、税務、投資に関する助言を構成するものではありません。個別の状況に応じた助言については、専門家にご相談ください。

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Ross Weldon
Contributing Finance Writer

Ross is a seasoned finance writer with over a decade of experience writing for some of the world's leading technology and payments companies. He brings deep domain expertise, having previously led global content at Adyen. His writing covers topics including cross-border commerce, embedded payments, data-driven insights, and eCommerce trends.

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